コンピューターや人工知能(AI)の処理能力向上にともなって、自然や社会のありようを数式で表現して研究や開発などに応用する「数理モデル」の注目度が高まっています。複雑な問題解決に向いていて、応用される分野は自然現象や製品などあらゆる分野にわたる「数理モデル」について解説します。
Contents「数理モデル」で社会課題を解決するとはどういうこと?さまざまな分野で応用ができる「数理モデル」について学べる学部、学科「数理モデル」で社会課題を解決するとはどういうこと?「数理」と聞いて、中学や高校で学ぶ「数学」と何が違うのかと疑問を持つ人も多いでしょう。簡単に説明すると、どちらも「数」にまつわる学問ですが、数学を発展させて理論を応用させたり、さまざまな分野と関連付けることで社会現象や課題、自然現象なども数学的に扱うのが数理科学という学問です。
数理科学で用いられる手法のひとつが数理モデルであり、現実にある「特定の動きや現象」を数式に置き換える、モデリングと呼ばれる作業を行ったものといえます。一度数式に置き換えれば、パラメーターに数値を入力したり、変更するだけで、簡単にシミュレーションできるようになるのです。
パラメーターを変えるだけで簡単に試行錯誤できる「数理モデル」いったん数式として表現できたモデルは、組み合わせてより複雑な現象をコンピューター上で再現させることができるようになっていきます。複雑な計算でも、高性能なコンピューターの計算能力を使えば高速に処理できます。さらに、ビッグデータを加味した計算結果なども瞬時に得られるため、実際に近い現象のシミュレーションが得られやすくなってきているのです。
例えば、飛行機を設計するときには空気の動きを分析しなくてはいけません。機体の形や大きさ、翼の大きさや角度、形などによって空気の動きが変化し、操縦性や速度、燃費などに影響するからです。しかしそれを確認するために、実際に試作機を製造して飛ばしていたら、時間もコストもかかります。しかし、その動きを数式化した数理モデルを使えば、試作機を作らなくても、コンピューター上でいくつものパターンでシミュレーションすることが可能になります。
とはいえ、シミュレーションと本物を使っての実験にはズレが生じるものですから、正確性という面からは、精度は落ちるかもしれません。しかし、数理モデルが実社会に広く反映できるようになってきているため、この分野が注目されるようになっているのです。
新型コロナウイルス感染症の感染予測にも将来の予測にも数理モデルは活用されています。
昨今の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行では、数理モデルを使った感染予測が各所から発表され、対策をたてる際に有効活用されています。例えば、Googleが発表している「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予測(日本版)」では、数理モデルとAIを組み合わせこれから28日の感染予測がグラフ表示させることができます。数理モデルが実社会で役立っている好例といえるでしょう。
・COVID-19 感染予測(日本版)ダッシュボードhttps://datastudio.google.com/s/nXbF2P6La2M
<感染症の数理モデル入門:東京大学 生産技術研究所 羽田野教授>
Society 5.0の基礎となる学問日本が目指している将来の社会像として、現実とデジタルが融合するSociety 5.0があります。ここでキーになるのが、現実の社会をデジタル上で再現し、デジタルの中で現実の課題をシミュレーションして、その結果を現実に反映させるというアプローチです。
そこでも数理モデルは欠かせないものとなります。デジタル、つまりコンピューターの中で、現実の課題を解決するには、数式にしたうえで試行錯誤することになるからです。
さまざまな分野で応用ができる数理モデルの研究自体は、数学や物理にて数式を扱うことになりますが、活用される分野は幅広く及んでいます。工学や物理学、電子回路、機械工学、生物、気象、社会経済、免疫、宇宙天文など、身の回りの事象すべてが対象といっても過言ではないでしょう。
冒頭で紹介した飛行機の例に限らず、ものづくりの現場では、数理モデルをベースにして製品を開発することも増えてきています。例えば、電化製品を開発する際に、電機部品の特性を数式化して、コンピューター上でモデリングしたパーツを組み合わせたときに、回路としてどのような動作をするかを確かめてみることは、よく行われています。
また、音や手の感触にも数理モデルが使われています。アナログシンセサイザーと同じ音色を、コンピューターで演奏できてしまうのは、電子パーツをモデリングすることで実現しているからです。タブレットなどで絵を描くソフトでは、デジタルペンの動き、筆圧などを現実のペンに近い形で表現できたりもします。さらに今後、進化していくであろうVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)においても、数理モデルは活用されるでしょう。
<数理モデルを用いて生物構造を解く:関西学院大学 理工学部 昌子准教授>
人間の心理を「数理モデル」で分析人間の心理までも、数理モデルで分析するという試みも行われています。飛行機が発着する空港では、混雑したり、手続きに時間がかかったりして、利用者がストレスを感じることがあります。九州大学と福岡空港ビルディングは、2015年、民間企業とともに、空港における人間の心理を数理の面から研究し、利用者の満足度を上げるための実証実験を行っています。
旅客満足度向上にむけた実証実験:九州大学https://www.kyushu-u.ac.jp/f/6024/2015_09_10_2.pdf
「数理モデル」について学べる学部、学科数理モデルを学ぶには、基本的には理系になります。数理科学、数理工学、数理情報などの名称を持つ学部が主になりますが、研究対象としてはとても幅が広くなるので、限定する必要はないでしょう。
数学の基礎理論は学ぶ必要がありますので、数学や数式に興味があれば、ぜひ目指してみてください。数理モデルを使う研究であれば、文系理系問わずに活用されています。
また文部科学省が「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」を進めていることからわかるように、数理はすべての大学生が学ぶべき重要なスキルと見られています。
数学の一種である数理モデルを社会課題と結びつけて考えることは簡単ではありませんが、「社会課題をいかに解決するか」を念頭に置きながら数理モデルを研究することは、今後ますます重要になるでしょう。
『数理モデル』の活用が期待できる分野自然現象、生物、気象、社会、経済、感染症、免疫、宇宙天文、言語学、電子回路、通信工学、機械工学
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